YOASOBIと直木賞作家がコラボした本、「はじめての」。
YOASOBIの「ミスター」の原作がこの本の1作目、「私だけの所有者」になります。
YOASOBIは「夜に駆ける」でデビューした音楽ユニットとして有名ですよね。
こちらの「夜に駆ける」も原作の小説があることで有名ですよね。
今回は、そのYOASOBIと直木賞作家がコラボして、全4作の小説と音楽のコラボになるそう。
2022年中に順次音楽も発表されていく予定です。
今すぐ読みたい、という方はこちらから。
YOASOBIのミスターはこちらです。
YOASOBIの「ミスター」の原作はどんな物語だったのか、あらすじとネタバレです。
YOASOBI「ミスター」の原作、「私だけの所有者」はどんな話?
「はじめての」の1作目は、島本理生さんによる「私だけの所有者」という物語。
舞台は、かなり未来の設定となっています。
どこか日本を思わすような、島国じゃないのかな、というところが舞台。
そこで作られた主人公のアンドロイドが、何らかの理由により国外で、保護観察中に書いている手紙、という形で物語が進みます。
手紙は全部で7通。
主要な登場人物は、アンドロイドの「僕」、所有者の「Mr.ナルセ」の2人。
後はMr.ナルセの弟夫婦や、その夫婦のアンドロイド「ルイーズ」。
そして、一言も台詞もないですが、読者は始めから存在を感じて居るであろう、手紙の読み手である「先生」。
手紙の1通目は「僕」がどのようにして、「Mr.ナルセ」と暮らすようになったか、などの経緯が書かれています。
この物語は、初めて人を好きになったときに読む物語、とタイトル上部に書かれており、本来感情のないはずのアンドロイドが、人に対して感情を持つ、というところがテーマの一つになっています。
気むずかしい技術者のMr.ナルセがどうしてアンドロイドを買ったのか。
また、なぜそんなに自分が購入したアンドロイドに対して厳しい態度を取ったのか。
そして、アンドロイドである「僕」に生まれた感情とは…。
と短編小説ながらも、内容はぎっしりでした。
YOASOBIのAyaseさんが、「物語を100回くらい読み込んでから曲を作った」とインタビューに答えられていましたが、たしかにかなり読み込まないとしっかりと理解できないかも、と思うほど、奥の深い物語でした。
「私だけの所有者」ネタバレ&考察
さて、ここからが盛大なネタバレです。
まだ読んでいない方は気をつけてくださいね。
主人公アンドロイドの「僕」、実は始めの一人称は「私」だったんですね。
で、これ普通に読んでいたら、アンドロイドは機械だから一人称が「私」なのかな、って思ってたんですよ。
それが、実は手違いで女の子が届いてしまった、というところがまず第一の伏線でした。
そこがわかると、Mr.ナルセの厳しいお小言の数々の意味がわかってくるんですよね。
この段階で、もう一度読み直そうかな、という気にさせられます。
そして、Mr.ナルセの亡くなったと思わすような書き方でちらほら陰が見え隠れしていた奥さん。
この人こそが実は最大のキーパーソンでした。
生きてるんですよ、この人。
そして、この奥さんがMr.ナルセのトラウマの原因。
といのも、奥さんは攫われて暴行を受けて…ということがあった、と言うことが後からわかるんです。
その際、亡命をしたい、とMr.ナルセに訴えるのですが、Mr.ナルセは一晩考える、と即答を避け、その晩に奥さんは消えてしまった、という設定です。
このことから、アンドロイドの少女に厳しかったのは、「今度こそ守りたい」という想いが強かったため、と読み取れるんですよね。
一人称を「僕」に変えさせたのも、家に着いたとたんに服装を変えさせられたのも、女の子だと周りにばれないようにするため。
まあ、奥さん側からしたら、攫われて暴行されて命からがら1週間かかって帰ってきて、亡命したい、とお願いしたら「ちょっと待って」と仕事と自分を天秤にかけられてた、という裏切られたと感じても仕方のない状況なのですが。
そして、奥さんは手紙を受け取っていた「先生」本人です。
アンドロイドの「僕」が無条件にMr.ナルセを慕う少女だとすると、「先生」は自分から去ったのに旦那のその後をずっと聞き出している元妻、という立ち位置になってきて、なかなかに複雑なことになっていきます。
そして、肝心のMr.ナルセは実はもうすでに死んでいるので、この2人がもうMr.ナルセに会うことはない、という…。
ちょっと切ない物語ですね。
アンドロイドの少女側からみたら、Mr.ナルセへの純粋な思慕、もしくは純愛とみても良いかもしれません。
本人はそこまで自覚をしていない感じでしたが。
そして、その感情をアンドロイドが持った、ということが問題となって保護観察されている、という状況です。
しかも、そのきっかけが、紛争のきっかけとなった大規模テロを先導した首謀者の1人にMr.ナルセが入っているから、というのが今の情勢と未来感がものすごくマッチしていて、純粋に上手いなぁ…とうならせられました。
読了後も、物語が頭の中でぐるぐるしています。
読みやすいのに、ものすごく印象に残る物語でした。
主人公のアンドロイドの立場に立ってみても、元奥さん(離婚しているかはわからないが、片方のみ亡命している状態なので、たぶん元、で良いんじゃないかと思います)の立場に立ってみても、切ない物語です。
まとめ
YOASOBI「ミスター」の原作、「私だけの所有者」は何度か読み返しても、なかなか上手くまとまらないくらい複雑にいろんな物事が絡み合った短編小説でした。
YOASOBIと直木賞作家のコラボ、曲はいったいどのような解釈になっているのか、小説を読むともう一度ゆっくりとききたくなってきますね。
残り3つの小説がテーマの曲も順次発表されると言うことですので、楽しみに待ちたいと思います。